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感想:ドラマ「火の魚」(平成21年度文化庁芸術祭大賞受賞作品)*ネタバレあり [テレビドラマ感想]

NHKで放送されたドラマ「火の魚」の感想です。
こちらは 平成21年度(第64回)文化庁芸術祭大賞
(テレビ部門・ドラマの部)受賞作品です。

以下の記述にはネタバレを含みます。


────
こちらの作品は、倒置法というか、
先に、物語の鍵となる重要なシーンをちらりと見せておいて、
その後に改めて物語が始まるという構成になっていました。
具体的に言えば、
冒頭の金魚(が喋っていると錯覚させられそうになったシーン)と
老作家・村田省三(原田芳雄さん)が
赤い薔薇の大きな花束を抱えるシーンです。
どちらも、村田と編集者・折見とち子(尾野真千子さん)との交流が
よく表わされている、とても大事なシーンでした。

特に、黒い金魚。
これは、最初に見た時は
「あ、金魚がいる」としか思えませんでしたが
折見さんが登場し、一旦退場し、
再び入院患者として表れたのを見て、
あれはスーツ姿の折見さんの象徴だと理解する事ができました。
作家を導き、励ますパートナー的役割を務める編集者として、
何より、スーツを着て働いていた
(元気だった)頃の彼女の証ですね。


死を間近に感じた事による怯えのせいで
既に死んだように無気力な生活を送っていた作家と、
大病、そして再発により入院した編集者……と、
この作品が人間の生と死に重きを置いているのは
一目瞭然ですが、
なんといっても、この作品で大きなウェイトを占めたのは
“魚拓にされる金魚”です。
こちらのドラマのキャッチコピーとして
“人生ってのは、自分が魚拓にされるまでの物語だ”とありますが
まさにこの通りだと思います。
この一文でドラマの全てを語っちゃっているぐらい
ネタバレ感バリバリのコピーですが、
他に妥当な言葉が見つからないほど、
こちらのドラマの主旨を適確に表わしています。

私が面白いなぁと思ったのが、
“魚拓に「される」”という、受け身の文章です。
村田も折見さんも、作中で、病によって死を強く感じます。
金魚が人間に魚拓にされるのを拒めないように、
人間も、自分の身体が死ぬ(病気によって殺される)のを
拒めません。
そういう人間の“望まない死”が
金魚の“望まない死”に上手く投影されており、
魚拓にされて金魚が死んでいくシーンが実際に描かれる事によって、
人間の死に対する無常さが深く出ているなぁと
しみじみと思いました。

ただ、人間と金魚には大きな違いがあります。
それは勿論、
死を感じつつも生きられる場合があるという事です。
金魚が突然、人間の都合によって魚拓にされたように、
人間も不慮の事故や病気などで、
自分が死ぬ事すら感じずに亡くなる方もいるでしょうが、
今回の村田や折見さんのように、
「自分は近い内に死ぬ(かもしれない)」と思いながら
残された日々を生きるケースが
決して少なくありません。
そうした時に、人はどう生きるかが問題になります。
こちらの作品は、そこにも焦点を当てています。

それまで無気力に生きていた村田は
突然表れた折見さんに心を動かされるようになり、
創作意欲も湧き、
最後には、「煙草を吸いたい」と
世俗的な事を海に向かって叫ぶようになったという
素晴らしい心境の変化を見せていました。
やはり、身体に悪いとは分かっていても
そうした事(飲酒や喫煙など)を望んでしまうのは
物凄く人間らしい考え方なんですね。
最後の、その煙草云々のシーンでは、
生きる事に対してすっかり前向きになった村田の元気さと、
その微笑ましさ、逞しさに対して、
私は思わず笑ってしまいました。
素晴らしいシーンだったと思います。


これは、ドラマを見た印象ですが、
折見さんに対する村田の気持ちは、恋だったと思います。
しかし、村田に対する折見さんの気持ちは
仲間意識の方が強かったように思えました。


金魚の魚拓を取るシーンは本当に圧巻でした。
ドラマの公式サイトでは
“スタッフ日誌”というコンテンツで
撮影の裏話が掲載されていて、
この金魚についても載っています。
なかなか面白い・興味深い内容でしたので
是非、ご覧下さい。
http://www.nhk.or.jp/hiroshima/program/etc2009/drama09/

作中で出てきた折見さんの紙芝居も良かったなぁ。
題材が、私の好きな“幸福な王子”だったので
あれは最初から最後まで見たかったです。
(撮影では本当に最後まで行なわれたので、
あの場にいた人達は全て見られたそうです。羨ましい)


それにしても、最初の感想記事でも述べましたが
http://himezakura.blog.so-net.ne.jp/2010-03-13-1
こういうドラマを作って放送してくれると
「あぁ、さすがNHK」と思います。
大変良質の作品でした。
芸術祭の大賞受賞にも頷けます。

そして、録画していなかったので
地上派での再放送をせつに祈ります。
映像特典として、折見さんの紙芝居が全部入るなら
DVDを買ってもいいです……!


Amazonを覗いてみたのですが
原作の室生犀星氏の小説は、既に絶版みたいですね。
このお話の元となったという“蜜のあはれ”の金魚の装丁も
現在の本とは大きく違うみたいですし……。
この大賞受賞を機に、再版してくれないかなぁ。



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2010-03-15 22:49  nice!(0)  コメント(0) 
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