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感想@映画「いつかの君にもわかること」*ネタバレあり [映画・舞台]

映画「いつかの君にもわかること」の感想です。
https://kinofilms.jp/movies/nowhere-special/
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以下の文章にはネタバレを含みます。
ずっと観たかった作品でした!



映画「いつかの君にもわかること」のあらすじです。

 窓拭き清掃員として働く33歳のジョンは若くして不治の病を患い、残された余命はあとわずか。シングルファーザーとして男手ひとつで4歳のマイケルを育ててきた彼は、養子縁組の手続きを行い、息子の“新しい親”を探し始める。理想の家族を求め、何組もの“家族候補”と面会をするが、人生最大の決断を前に進むべき道を見失ってしまう。そんな彼は、献身的なソーシャルワーカーとも出会い、自分の不甲斐なさに押しつぶされそうになりながらも、息子にとって最良の未来を選択しようとするが……。


ずっと気になっていた作品が
地元の映画館で観られるようになったので、
いそいそと出かけてきました。

きっかけは、NHKの「あさイチ」です。
たまたま視聴した映画紹介のコーナーで
この作品が取り上げられていたんです。
普段から涙脆い私は、死が主題の作品に弱く、
その時も僅かな映像を見ただけで引き込まれました。

しかし都内でも上映館が少ないようだったので、
そのまま観ることができずに忘れてしまうのだろうと
思っていました。
でも、こうしてご縁がありました!



若い父親に死が迫る中、
一人遺すことになる息子のために
里親探しに尽力する話ということで、
さぞやお涙頂戴な内容を見せられるのかと思いきや、
意外に普通だったので驚きました。
主に描かれていたのは、
父親と息子の穏やかな日常生活でした。
勿論、二人は里親候補の家に出かけていくので、
そこで面食らったり
時には不快な思いをしたりします。
また、病魔は確実に父親の体を蝕んでいて、
トイレでの吐血や
窓拭きの仕事ができなくなるといった辛い描写も
ちゃんとあるものの、
印象がやたら強いのはやはり親子の他愛のない日常です。
特に、父親の誕生日に合わせて
二人でスーパーで買い物をするシーンと、
父親が初めて焼いたらしい不格好なケーキに
息子が赤いローソクを一本ずつ刺していくシーンが、
凄く凄く良かったです。
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最後に息子が追加で一本の赤いローソクを父親に贈った後、
暫くしてからその父親が
未来の息子に宛てて残す予定の箱の中に
そのローソクを入れるくだりは、
無性に泣けて泣けて仕方が無かったです。
(父親の余命はもう僅かで、
今年は年の数だけ息子にローソクを刺してもらえたけれど、
おそらく来年はもう生きていないので、
その一本は永遠に刺せない/刺してもらえないと分かるのが
辛かったです)



何人も登場した里親候補は、
決して悪い人ではないのでしょうが、皆、癖が強く、
私も思わず「うーん」と唸りそうになりました。
特に後半で出てきた
子供を敢えて生まないようにしていたらしいのに
何故か赤ん坊を欲しがっていた
(マイケルでは育ち過ぎていて不満だった)夫婦には、
不快感を覚えました。
もしかすると、あの二人は……特に奥さんは
妊娠を強く望んでいたにもかかわらず、
これまでも、そしてこの先も叶いそうになくて、
でも「自分は妊娠できない」との事実を認めるのは
あまりに辛いので、
自分の心を守るために無自覚で
妊娠や出産に対して否定的な言葉を吐くようになったのかなと
想像しました。
旦那さんは気が弱いのか、
終始、奥さんの言葉に引きずられていて、
奥さんの意見がそのまま旦那さんの意見になっていたのが、
ちょっと気持ち悪かったです。
二の腕のあたりがぞわぞわとした感覚に襲われました。

ジョンとマイケルがお暇をする際に、
その夫婦が(ここでも特に奥さんが)
マイケルからぬいぐるみを取り戻そうとしたのも
随分と心が狭い行動でした。
尤も、彼らにマイケルを養子に迎える気が本当にあったのなら、
あのぬいぐるみはそのまま彼にあげたでしょうから、
拒否の答えとして分かりやすかったのは
逆に良かったのかもしれません。
ジョンも、残された僅かな貴重な時間を
あの夫婦への迷いに割かずに済んだので、
不愉快だったでしょうが実は幸いだったと思います。



赤い風船に赤いローソク……など、
この作品ではマイケルが特に好きだという赤の色が
実によく効いていました。
最後、赤い帽子をかぶったマイケルと
赤い服を着たジョンが、
赤い玄関ドアのお宅のチャイムを鳴らすシーンでは、
お隣の建物の屋根まで赤かったのも含めて、
とにかく赤の色が私の目に飛び込んできました。
赤はマイケルが特に好む色であるのを踏まえると、
彼ら親子には祝福の色という位置づけなんでしょう。
その赤いドアを開けて出てきた優しそうな女性が
「『また』会えて嬉しい」云々と言っていて、
明らかに他の里親候補とは違うと分かった時は、
おそらく彼女がマイケルの里親になるのだと思えてならず、
私も嬉しくなりました。
ホッとしました……!
最後の最後でマイケルがジョンをじっと見上げるのも
とびきり良かったです。
ジョンが亡くなった後も、マイケルはこんな風に、
かつて手を放してしまった赤い風船の行方を見守った時のように、
姿が見えない父を思って空を見上げるのかと思うと、
また涙が止まらなくなりました。



ジョンの言葉も凄く良かったです。
マイケルの里親探しについて、
自分の人生において最大の選択だと言い切った時には、
息子に対する深い愛と、
彼を遺して死なねばならない無念さが
よく表れていたと思います。
また、「里親候補に会ってみれば、
彼らで良いかどうかがすぐ分かると思った。
でも彼らと会っていくうちに、
それが本当に正しいのかが分からなくなり、怖くなった」と
ジョンが心境を打ち明けるくだりも、
とても現実的で胸を打つシーンでした。
結局、ジョンのこの迷い(悩み)は、
彼の死後にマイケルが評価を下さないと解消しないので、
ジョンは残りの人生でずっと
「この決定は本当に正しかったのだろうか」と
葛藤し続けるんでしょう。
もし、上記の赤いドアの女性が
マイケルの里親に決まったとしても、
その選択で良かったか否かは
未来のマイケルにしか分からないわけで。
しかし、その結果がどうであれ、
かつてジョンがマイケルのために
里親探しで奔走したという事実は確かにあり、
幼いマイケルの心にも父に愛された記憶として残ると思います。
マイケルにとってはその記憶こそが一番の宝物で、
邦題の「いつかの君にもわかること」なんですよね……。
ご存知のとおり、
この作品の原題は「Nowhere Special」ですが
邦題が実に素晴らしいです。
亡き父にたくさん愛されていたことを知るマイケルなら、
この先、どんなに辛いことがあったとしても
心を強くもって生きられると思います。



最近は説明過剰な作品が多いので、
作中での具体的な説明が無いこの作品の鑑賞では、
一瞬戸惑うことが多かったです。
特に序盤では、場面や登場人物が変わる度に
映像や台詞から情報を得るのが大変でした。
でも、中盤以降はその状態に慣れてきて
比較的余裕をもって観られたと思います。

映画の鑑賞後、この感想記事を書くために
ざっと調べてみたところ、
これは2020年の作品だそうで……。
もっと早く日本で公開されるべきだと思ったものの、
長い時間を要してまで
この作品を日本での公開にこぎつけた関係者さんには
感謝するばかりです。
ありがとうございました。
とても良い作品でした。



2023-04-02 18:40 
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