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感想@映画「告白」*ネタバレあり [映画・舞台]

映画「告白」をDVDで見ましたので、感想を記します。

告白 【DVD特別価格版】 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: 東宝
  • メディア: DVD

キャストさんはこちら(敬称略)
森口悠子:松たか子
寺田良輝(ウェルテル):岡田将生
下村優子:木村佳乃
森口愛美:芦田愛菜
桜宮正義:山口馬木也
渡辺修哉(少年A):西井幸人
下村直樹(少年B):藤原薫
北原美月(少女A):橋本愛

以下の記述にはネタバレを含みます。
私は、原作の小説を以前に読んだことがあります……が、
細かなところを忘れてしまっています。


————

面白かった……けれど、疲れた!!!

私が原作を読んだのは、去年の秋頃で、
この映画はもうとっくにDVD化された後なのですが、
なかなか観る機会がなく、ようやくそれが叶いました。
原作の小説は、
確か、一人一話の短編小説の連作という形で
本になっていたんですよね。
こうして映画版を観た後ですと、
原作小説の最大の特徴である視点分け(構成)は
映像向きなんだなと、
改めて思えました。
また、これも好みで分かれるでしょうが、
私は、原作の小説より映画の方が
観る人に優しい(分かりやすい)と思います。
でも、この話を知らない人の導入口としては、
これだけ話題になった後なら、
映画でも小説でも支障が無いと思います。



さて、この映画、
教師による生徒への教育・躾の究極を示す話であり、
一人の母が少年に復讐を下す話でもあり、
母と子の在り方が描かれた話でもあります。
物語は、森口悠子先生(松たか子さん)を主軸に
進められていきますが、
彼女そのものではなく、彼女がした“事”が
多大な影響力でもって物語を支配しているので、
彼女が主役という印象は強くありません。
それだけ、カメラは登場人物から少し引いて
(距離を取って)撮っているように思えます。
なので、登場人物に寄り添わない分、
淡々とした撮り方になっていますが、
一連の事件を一つにまとめるという点では
とても成功していると思います。
ここが、小説より映画の方が分かりやすいと思えた理由に
繋がっていた気がします。



この映画の一番の面白味であり、恐ろしさは、
登場人物のほとんどが、非常に自分勝手というか、
自分しかいない世界に住んでいて、
自分のことしか考えていない点です。
例外は、森口先生の娘の愛美(芦田愛菜さん)と
桜宮先生(山口馬木也さん)ぐらいでしょうか。
森口先生も、娘が殺される前は、
世間の人並み程度には他人のことを思えていたはずです。
また、物語の最後で、
森口先生が渡辺修哉(西井幸人さん)を
究極の罰でもって教育した点に重きを置けば、
彼女もまだ他人のことを考えているとも
受け取れるかもしれません。
でも、“自業自得”という重い罰を与えて
復讐を遂げた点を踏まえると、
そうは思えなくなってきます。



私が面白いなと思ったのは、
映画の序盤で森口先生が何気なく発した
「ジャニーズJrと結婚して〜」という台詞です。
この喩え、「非現実的な夢にうつつを抜かして、
日常を疎かにしてしまっている」という意味で、
森口先生が女子生徒に対して皮肉を放つという使われ方で
出てきました。
この時、生徒は騒いだり勝手なことをしたりしていて、
誰も真剣に受け止めていませんが、
物語が進み、代表的な生徒の心の内が見えてくると、
皆、ジャニーズJrと結婚するという夢に匹敵するぐらいの
愚かで馬鹿な生活を送っているらしいという事実が
分かってくるんです。

例えば、北原美月(橋本愛さん)。
かつて世間を騒がせたルナシー事件の犯人に共感した彼女は、
毒薬を密かに集め、
人を殺す気になればいつでもそうできることに酔っています。
この場合の“人”は、勿論、彼女自身も含みます。
そして渡辺。
母に捨てられた自分を認められない彼は、
いつか彼女の方から自分を見つけてくれることを夢見ます。
下村直樹(藤原薫さん)も含めた彼らは、
「皆、分かっていない」「自分は特別だ」
「認めてもらえないだけだ」という
優越感を持っているらしいことから分かるように、
ジャニーズJrのメンバーとの結婚を夢見る子を
馬鹿にしていたと思うんです。
でも、観客である私からすれば、どっちもどっちに見えました。
ジャニーズJrとの結婚が馬鹿なことなら、
世の中に呆れて変な薬を集めてみたり、
母親に自分の存在を気付いてもらう為に変な道具を作ったりするのも、
十分に馬鹿なことだと思えたからです。
ただ、それは、思春期特有の言動というか、
内容や程度の差はあれ、誰もが必ず通る道です。
大人になってから、夜中に自分の黒歴史をふと思い出して
「あああああ……!」と叫びたくなるところまでが
お約束だと思うので、
そういう彼らや、その言動を真っ向から否定することは
私もしません。
でも、そんな愚かなことをしている当人が、
それを自覚しないばかりか、
同じようなことをしている別の誰かを蔑む様は、
彼らがまだ精神的に幼いせいでそうしているのだと分かっていても、
私には滑稽なことだと思えてなりませんでした。



見ていて一番興味深かったのは、やはり渡辺です。
頭が良いのだから、彼がその気になれば、
母親の所在なんて簡単に掴めたと思うんです。
作中でも説明があった通り、彼がそうしなかったのは、
母親に捨てられた自分を認めたくなかったからですよね。
彼の「もし母親が自分を見つけてくれたなら
必ず連絡してくるはずだ」という幼い望みは、
ひっくり返せば、
「母親が連絡をしてこないのは、
自分の存在がまだ母親に気付かれていないからだ」という
非常に自分勝手な慰めになります。
だからこそ、Webサイトに母親の所在が書き込まれていた時に、
これは母親からのメッセージだ!
→やっと自分に気付いてくれた!
→母親は自分に会いたがっている!
と思えたことから、
“自分を必ず受け入れてくれる想像の中の母親”と
“一体どうなのかが分からない現実の母親”との差が
ようやく埋まったので、
彼はうきうきしながら会いに行ったんですよね。
でも、母親の研究室で自分に厳しい現実を知った渡辺は
自分に都合の良い空想の世界に進んで飛び込んでしまったという。
最後、自分の世界を壊そうとした点も含めて、
渡辺の心情をこうしてずらずらと書いていくと、
彼は本当に繊細で孤独な少年なんだとよく分かりますが、
思考があまりに幼すぎるので、同情はできません。



美月については……
“事件を静かに見届ける傍観者”的な立場だった時は、
彼女のマイナス面が描かれていないので、
割と好ましく見ていたのですが、
渡辺と関わり始め、素の部分を観客にも見せた辺りから
「ううん、ちょっとなぁ」と思うようになりました。
ただ、彼女の場合、渡辺や下村と違って、
他人を傷付ける行為にまでまだ至ってなかった分、
その考えは“思春期特有の愚かさ”の範疇にあるので、
まだましだったと思います。
結局、薬も集めただけで、実際には一度も使わなかった
(使う勇気が無かった?)みたいですし。



下村は、渡辺も……というか、
あのクラスの子ほぼ全員がそうみたいですが、
自分は平気で他人を馬鹿にするのに、
他人から馬鹿にされると物凄く怒るという
変に高いプライドを持っている点が、
非常に生々しかったです。
他人に笑われたり蔑まれたりすることに敏感な人が、
殺人を犯して自ら道を踏み外し、
そうされるきっかけを進んで作るなんて、
普通ならあり得ないことです。
でも下村は、渡辺に対する一時の優越感を得る為に、
衝動的に殺人を犯し、人生を棒に振ったんですよね……。
「あいつ、俺を馬鹿にしやがって」という
他人に認められなかった悔しさが暴走したという心境は
よく分かりますが、
見ていて辛かったです。

また、母親の優子(木村佳乃)の出番も多かったので、
下村については彼女とのやり取りも興味深かったです。
母親が善かれと思って行なった息子の身繕いが、
当の彼にとっては死を表す行為であったと分かるシーンは
とても秀逸でした。
また、狂ったように皿を洗うシーンでは、
彼も本当は、単なる母思いの優しい子だったと伝わってきた分、
やるせなかったです。

下村優子のみのシーンも大変良かったと思います。
息子に贈られた励ましの色紙を、わざわざ飾っていたのに、
実はそれが「人殺し死ね」という意味を含んでいると知って
絶叫するシーン。
そして、最後の日記を綴る際に、
ごく当たり前のように「天国へ行く」と表現しているシーン。
彼女は深く考えずに、
「天国に行く」=「死ぬこと」という意味で
さらさらとこう書いたのでしょうが、
息子がしたことと、これから自分がしようとしていることを
冷静に受けとめられているのなら、
普通の人なら、ここは「地獄へ行く」と書くかなと思いました。
それと、その直後に包丁を選ぶシーン。
一度掴んだものを戻して、別のを選んでいましたよね。
息子の胸を突き刺す分には
最初に選んだ包丁でも構わなかったはずです。
でも、料理中に用途で包丁を使い分けるように、
「これ……いえ、こっちね」と選んでいるところに、
下村優子の日常や人間性が出ている気がしました。



最後に、森口先生について。
彼女が教師で、彼女の伴侶がHIV感染者で
彼女が一女を持つ母親で、
彼女が受け持ったクラスの生徒が愚かで……と、
色んな要因があってこんなことになってしまったとは、
よく分かりました。
森口先生に対しては、
色々と思うことがありましたが、複雑すぎて、
自分の中にある感情だというのに上手く言葉にできません。
それは、この映画を見た直後の気持ちでもありました。
結果的に渡辺が自らに罰を下す展開になったのは
後味が悪いですが、大変面白いです。
あの罰の与え方は、話を締めるに相応しい内容だと思います。
でも内容が内容だけに、他の娯楽映画を観た後のように
「あぁ面白かった!」とはとても言えません。
まぁ、この感想記事は国語の試験ではないので、
敢えてちゃんとまとめないのもたまにはいいかなと思っています。
(私としては、感想記事を書くことで、
自分でも気付かなかったことが見えてきたり、
自分の思いを整理したりすることができるので、
可能だったなら、やはりそうしたかったです)



物語に関係することではありませんが、
この作品での芦田愛菜さんが幼くてびっくりしました!
撮影が行なわれたのって、
彼女が世間からの注目を浴びるきっかけになった
ドラマ“mother”の後ぐらいでしたっけ。
「わ、小っさ!」と思いました。



自己中心的な人間が放つ他人への悪意が満載であるせいで、
観た後は決して良い気分になれませんけれど、
その毒が面白味に繋がっているので、
映画作品としては大変優れていると思います。
未見の方にはお勧めします。



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2013-06-11 23:13  nice!(0) 
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