SSブログ

感想@鬼頭莫宏「彼の殺人計画」ジャンプSQ.(スクエア)2008年5月号」*ネタバレあり [アニメ・ゲーム・漫画・小説]

鬼頭莫宏先生が月刊誌「ジャンプSQ」5月号で
読みきりとして描かれた漫画「彼の殺人計画」の感想です。
私は「ぼくらの」で鬼頭先生を知り、ファンになりましたが、
実は「なるたる」が未読です orz



以下の感想では、結末に関する大きなネタバレを含みます。
未読の方は閲覧をご遠慮下さい。







鬼頭先生の話の作風、このタイトル……からいって、
まず間違いなく不条理な人の死に方が描かれるのかなぁと想像しながら
読み始めました。


そして、「なるたる」のネット上での感想や
(↑漫画本編は未読ですが、気になってネットサーフしました)
「ぼくらの」のストーリー展開からいって、
鬼頭先生は、私とは考え方が大きく異なる方なんだなぁと思いました。

いえ、名作を出してらっしゃる漫画家さんと自分を比べる時点で
間違ってるのは重々承知しています(笑)。
でも、実は私も不幸萌えというか、人の死に関する話が好きで、
そういう系統の話を好んで読んだり
自分でも小説をちょっと書いたりしてますが、
私の場合は、泣いてすっきりしたいだけなのかなと思いました。
(人は悲しくて泣いていてもストレスを発散できるらしいです)

なんていうか、鬼頭先生の作品を拝読すると
「人の死を描く(書く)」事に対する考え方の重さの違いを
実感する気がします。
ううん、上手く言えないのですが、
私の場合は、非日常的な、ある意味「萌えカテゴリ」みたいな感じで
「死にネタが〜」と語ったり思ったりするのに対して、
鬼頭先生は、非日常的な設定であっても
物凄く身近な日常的な空気を感じるんです。
それこそ、「ぼくらの」なんて
ロボットが出てくる時点でファンタジーですが、
「死」というものに対しては
物凄く日常的だなぁと思えてなりません。

そして、「なるたる」を読んでない私が
鬼頭先生の作品を語るのも何ですが
良くも悪くも、「死」という題材を扱っている以上、
人の心を傷付ける話ですよね。

「傷付ける」って悪い意味の言葉ですが
鬼頭先生への感想に使う場合はそれだけではなく、
寧ろ「感動した」というニュアンスに近いです。
でも、「ぼくらの」にしても今回の「彼の〜」にしても、
「感動」という単語はあまり似合わないような気がしていますので
使うのに抵抗があります。
心が打ち震えるということは同じなんですけどね……。
傷を刻み込まれるという感じ?
うーやっぱり上手く言えない(笑)。
だから、作品を拝読すると、
その傷が熱く疼くので
何かを思ったり語ったりせずにはいられません。


───

怨恨で人を殺すのは、感情が前面に出ている以上、非常に人間臭いですが、
でも逆に、「だからこそ怨恨で人を殺したくない」と思う彼も
やはり人間臭いなぁと思いました。

でも、自分と無関係の人間を殺すという考えは理解できません。
しかもそれが幼女というのも……。
どうせだったら、無抵抗な小さな女の子をターゲットにするのではなく、
自分が倒せそうにない屈強な(見知らぬ)男でもいいじゃないかと
読んでいて思いました。
恵まれた環境に身を置こうとして空手とピアノを始めて、
勉強も頑張って結果をきちんと出した努力を思えば
(不幸せな人生だったからこそ殺人を犯したと思われない為の策)
これでもいいんじゃないかと。

目的を持った主人公が努力をした途端、早く上達したというのは
普通、読んでて嬉しい部分なのですが
今回は素直に喜べませんでした。
(でも皮肉な感じで笑っちゃいましたが)


そうして、ある意味、優れた人間
(とても殺人を犯しそうにない人間)になった主人公が、
同じように変わったらしいオタクの男に刺されたというのが、
凄いなぁと思いました。

というか、良い終わり方ですよね。
あそこであの幼女を刺していたら、救いも何も無い。
ただ主人公が死ぬのでは面白味が無い。
(死ぬとは明確に描かれてませんが
あそこは死をもって話が完結するのだと思っています)

とんでもない考えを持った主人公が
同じ考えを持った(もう一人の自分とも言える)登場人物に殺されることで、
今まさに死ぬところなのに心から満たされたのだと思います。
多分、主人公が幼女を殺すのに成功したとしても、
きっとあそこまで満たされなかったと思います。
満足せずに、もしかしたら連続殺人とか犯したかもしれません。
早い話が、この結果は自業自得なのですけれど、
ちょっと不思議な読後感の話だなぁと思いました。

こう思うのは、実は、
主人公を刺した男がその前に出てきたオタクの男
(美少女の紙袋を下げている)だと
最初は気付かなかったんですよ(笑)。
あのまま幼女を刺すものだと想像していたらいきなり刺されて、
「え? 何これ?」と呆然としました。
でも読み返してみて、オタクの男が彼だと分かり(目元のホクロが同じ)
髪の毛を始め外見が変わっている事から、
彼も主人公と同じなんだと分かった瞬間に、
目の前のドアがバンッと音を立てて開いたみたいな
爽快感を味わえました。
だから余計に、読後感に奇妙さを感じているのかもしれません。


また、結果的に、あれだけ悪い考えを持っていた主人公が、
傍目(世間)からすれば
非常に良い人間のまま死んだというのが凄いと思います。
結果的に、あの幼女も死にませんでしたし。
主人公が死んだことで、あの考えが実行されることもなく
(当然ながら、家族が「加害者の家族」として迷惑を被ることもなく)
物語が終わったというのが凄い。
もしかしたら、刺した男が自分の心情(主人公の心情でもある)を語るかもしれませんけれど、
それを、男=主人公だと同一視できるのは読者だけなので、
その世界には一人もいないことになります。
凄いですよね……。
あの終わり方は圧巻でした。
人が死んでいるのに「爽快感」なんて言葉を使うのは不謹慎だと思うのですが
すとんと納得できるというか
「あぁ」と素直に受け入れられるあのラストには心から感服しました。
ラストは本当に上手い。
星新一氏の短編を読んだ後みたいな感じがしました。
とても勉強になりました。
(追記)
でもでも!
死亡時の主人公は包丁を携帯しているし
家には殺人計画ノートが残っているしで、
それらが判明するあの後が悲惨ですよね。
親はなんて思うんだろう。
あと可愛いカノジョがかわいそうです。
一見、ハッピーエンド?に見せかけて実はアンハッピー……
──いえ、でも主人公が刺された時点でハッピーじゃないですよね。
難しいというか、奥が深い終わり方だ。
鬼頭先生凄いなぁ。


大変面白く読めました──が、
やはり人に「これ、面白いから読んで!」と
積極的に勧められるタイプの漫画ではないですね(笑)。
そして今回は、この作品を目当てにこの雑誌を読みましたが、
他の作品目当てでこの作品を読んだら、
鬼頭先生の作風に当てられて
もっとびっくりしたのかなぁと思いました。

もし未読の方がいらっしゃいましたら、是非どうぞ。
ついでに「ぼくらの」もどうぞ。
こちらの連載は佳境ですよ。


あと、どうでもいいですが、
鬼頭先生の巻末コメントに照れを感じました。
本気でそう思ってるなら
こういう作品は出さないよなぁと(笑)。
でも、「ほら読めよ!」とも言えず、
ちょっとばかり照れて
ああいうコメントを載せたのかなと想像しました。

────

感想は以上です。
お読み下さり、ありがとうございました。


ランキングに参加しています。
記事がお気に召しましたらバナーを押してやって下さい。
*別窓でランキングサイトが開きます
にほんブログ村


2008-04-05 11:37  nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:コミック

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証: 下の画像に表示されている文字を入力してください。

 


この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。