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感想@映画「エゴイスト」*ネタバレあり [映画・舞台]

映画「エゴイスト」の感想です。
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エゴイスト (小学館文庫)

エゴイスト (小学館文庫)

  • 作者: 高山真
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2022/08/05
  • メディア: Kindle版



この作品を映画館で鑑賞してから
もう一週間が経過したのですが、
未だに何をどう書いたら良いか、
自分の中で考えがまとまっていません。
ただ、とにかく私の感情が揺さぶられたのは確かで、
凄い作品でした。
入口と出口が全く違いました。
ただのゲイカップルの話ではなかったです……。

私は元々”腐女子”です。
原作の小説は未読で、
ネットで「この作品の性描写が激しいらしい」と見たのを機に、
「それなら観に行かねば!」と
実に軽い気持ちで
鼻の下を伸ばしながら映画館に向かいました。

確かに、性行為は激しかったです。
ゲイカップルのガチな行為といった感じのそれは
私が普段からよく接しているBL(ボーイズラブ)とは違って
ファンタジー要素は無く、
おそらく現実に近いのだろうなと思わされました。
非常にいやらしいにもかかわらず、
不快感が皆無だったのが意外で、
私はただただ圧倒されました。
また、男性同士のカップルの性描写で、
後背位で適当に誤魔化すのではなく、
ああいう感じでちゃんと(?)正常位で睦み合うのを見たのは
初めてだった気がします。
(それとは別に後背位でするシーンもあります)

しかし、そんな激しい性描写は
あくまで客を映画館に呼ぶための
釣り針だったのかもしれません。
暫くして龍太が不慮の死を遂げると
作品の主題は少しずつ変わっていき、
単なる恋愛作品の枠を超えていきます。
性愛やLGBTQといった主題を常に提示しながら、
「愛とは何か」や「エゴとは何か」といった問いを
これでもかと観客につきつけてきます。



龍太の死後、浩輔が彼に代わって
彼の母親である妙子さんの援助を献身的に続けたのは、
無償の愛と呼べるのかもしれません。
しかしこの行為を、
浩輔がかつて自身の母親にしたかったことを
妙子さんにさせてもらっているのだと捉えた途端、
彼のエゴが浮き彫りになります。
また、妙子さんも妙子さんで、
浩輔から渡される毎月のお金によって
以前と変わらない暮らしを送れるのは勿論のこと、
可愛い一人息子を突然失った悲しみを
無意識のうちに浩輔との交流で埋めようとしたのは
決して否めず、
そこには彼女のエゴを感じます。
そして、共依存にも似た歪な二人の関係は、
当初こそ他人に説明しにくいものでしたが、
次第に実質的な家族へと変貌します。

浩輔と龍太は出会った当初から心の結びつきが強く、
まるで比翼の鳥のようでした。
同性愛への理解が進まない日本では
その関係を的確な言葉で大っぴらにすることは
できなかったけれど、
二人が実質的な家族(夫夫/ふうふ)のように
仲睦まじくしていたのは明らかです。
そして龍太の死後、
彼の母親である妙子さんを浩輔が実母のように慕い始めると、
妙子さんと浩輔もまた、
他人には説明しにくい関係になると同時に
実質的な家族になります。
これについては、
妙子さんの入院時の描写が大変素晴らしかったです。
妙子さんの見舞いで病室に現れた浩輔を見て、
同部屋の老女が彼女に向かって息子かと二度問いますが、
一回目は妙子さんが「息子じゃないんです」と
曖昧な言い方(でも嘘ではない)をするに留めた一方で、
二回目は「そうなんです」とあっさり肯定していました。
日が経っているとはいえ
老女が同じ質問を再び妙子さんにしたことからして、
彼女はもうボケが入っているのかもしれず、
答える妙子さんも二度目は否定するのが面倒になって
「そうだ」とつい言ってしまっただけかもしれませんが、
このシーンはやはり、
妙子さんの中ではもう浩輔が息子同然の存在になっているのだと
素直に受け止めるべきでしょう。
観ている私まで
色んな思いが報われたような気持ちになりました。

また、浩輔が直面した現実的な問題も
非常に上手く描かれているなと思いました。
独身である浩輔は、
月収を普段から好きに使っているようで、
龍太や妙子さんへの金銭的な援助についても
決定や実行に迷いがありませんでした。
しかし、特に節制するわけではなく
以前と同様に高級物件に住み続け、
高いブランドの服を買いながら、
毎月十万円(プラス差し入れ代)が飛んでいくんですから、
出費が急増したのは言うまでもありません。
浩輔が、預金口座の残高を見て無言になったり、
妙子さんへの差し入れを買うために立ち寄った青果店にて、
一個千円もする高額な梨を選ぼうとするものの、
ふと我に返って
その近くに並べられていた安価な梨にしようとした後、
迷いに迷ってやはり高額な梨を買ったシーンは、
浩輔の苦しい現状と、
それでも妙子さんへの援助を止めない彼の意思の強さ
(妙子さんへの思慕の強さ)が
よく表れていたと思います。



龍太の死は本当に突然で、衝撃的でしたが、
それ以上にその後の深い描写が凄まじく、
私は心を揺さぶられっぱなしでした。
あまりよく覚えていないのですが、
龍太が亡くなって作品の主題が大きく変わってからは、
程度の差はあれずっと泣いていた気がします。
ひっくひっくという嗚咽を漏らさないように、
口をハンカチで必死に抑えていました。

それでも、
思わずウっと声が漏れてしまった時がありました。
入院中の妙子さんが、浩輔に向かって
「天国では龍太が浩輔さんのお母さんの面倒を見ている」と
言った時です。
妙子さんと浩輔が実質的な親子になれたと同様に、
天国では浩輔の母親と龍太もそうなったんだと思ったら、
胸がいっぱいになりました。

また、これはまだ龍太が生きていた頃ですが、
浩輔が初めて妙子さんに会った際に、
料理をする彼女の後ろ姿を彼がじっと見守るシーンでは、
私もかつて全く知らない親子連れに
亡き父と幼かった頃の自分の姿を重ねてしまったのを
急に思い出し、
涙腺がいきなり弛みました。
この作品は、私に限らず、
親を亡くしている人の心には特に刺さると思います。
私も、亡き父への思慕が急に強まり、
また会いたくなってしまいました……。



上記のとおり、
私は特に浩輔と妙子さんの関係に注目し、
深く感動したのですが、
前半の主題である浩輔と龍太の描写も大変良かったです。
叶うのなら、
二人のいちゃいちゃをもっと見ていたかった……!
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まず、龍太を演じる宮沢氷魚さんが
とにかく美しくて可愛くて、本当に素敵でした!
普段はウリをやって生計を立てているにもかかわらず、
龍太に汚れた感じが一切しなかったのは、
彼を演じた宮沢さんに
誰にも侵されない尊さみたいなものがあるからだと、
スクリーンを介して強く強く実感しました。
私は朝ドラを日常的に見ており、
前作の「ちむどんどん」での宮沢さんは
ただただ酷かったという印象しかなかったのですが、
この「エゴイスト」での宮沢さんは
ちむどんどんと同じ人かと首を傾げるほど良かったです。
掌返しが過ぎる自分が恥ずかしくなるぐらい、
今さらながら彼のことを見直しました!

主演の鈴木亮平さんは、
相変わらず役への没頭振りが最高でした!
同じお仲間で楽しく集うシーンでは、
喋り方や身振り手振りがもうガチゲイの人にしか見えなかったです。
私が映画館に行ったのも、
鈴木さんが主演という理由が大きかったので、
彼にはもうさすがだったとしか言えないです。
そして阿川佐和子さん!
この作品は、彼女の好演あってのものだと思います。
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この記念写真の撮影が……
この時も「良いシーンだな」と思えるのですが、
龍太の死後は更に重みが増しますよね。



ただ、浩輔も龍太も
何を考えているのかがよく分からない部分があり、
特に二人が相手のどこに惹かれたのかについては
あまり見えなかったので、
(双方とも一目惚れだったのかもしれませんが)、
そこをもう少しじっくり見たかったです。
また、浩輔と出会ったばかりの龍太の言動が
どこまで素で、どこまで演技(計算)なのかも
はっきりと知りたかったです。
龍太が喫茶店での会計時に小銭を床に落として
頭をぶつけて痛がるところや、
高級そうなお寿司屋さんのお品書きを見に行った後、
「高かったので買うのを止めました」と
わざわざ浩輔に報告するところは、
天然っぽい素の彼を感じなくもないですが、
浩輔を落とすためのあざとさでもあるようで、
これはどちらなんだろうと気になり、
物語に集中できなかったです。

龍太の死は、やはり過労が原因なんでしょうか。
ウリをやっていた時の龍太は
心が死んでいたでしょうから、
浩輔の許しによって救われ、
満たされるようになったのは良かったのですが……。
結局、収入の減少により
仕事に当てる時間を増やさざるを得ず、
慢性的な疲労の蓄積のせいで
彼の体の方がもたなかったんだと考えると、
やりきれない気持ちになります。
私ですらそうだったんですから、
当事者の浩輔の辛さが筆舌に尽くしがたいのは
当然です。
お葬式で浩輔が泣き崩れるシーンは
ちょっと見ていられなかったです。



この作品はR15指定だそうです。
それに見合うぐらい濡れ場は激しく、
見応えがありますが、
そういう特別な描写やLGBTQの問題ばかりが注目されるのは、
ちょっと勿体ない気がします。
勿論、この作品は
同性愛者を介して語られる愛の物語なので、
彼の性的な嗜好が大前提として非常に重要なのは
言うまでもないのですが、
上記のとおり、この作品はそこを入口として
物語の途中から大きく変容するので、
できれば多くの方に観てほしいです。
激しい性描写がある以上、
地上波でのテレビ放送はまず無理ですし、
そこを編集でカットするとしても
作品の一番深いところが削られては
正しく評価を下すこともできなくなるので、
劇場で観られるうちに是非!とお勧めします。



ちなみに、この作品をTwitterで検索すると、
サジェストで「エゴイスト 酔う」と出てきます。
私も車酔いをしやすいので、
観る前はちょっと怖かったのですが、
前夜にきちんと睡眠を取った上で、
シアター後方の席(後ろから二列目)で鑑賞したら、
最後まで問題無かったです。
座席のネット予約も少し追ってみたところ、
公式アカウントさんの注意喚起もあってか、
やはり席は後方から埋まっていました。
観る際には早めの予約をお勧めします。



感想を書き終わったらまた観に行くと決めていたので、
私もようやく二度目を見ます!
円盤が出たら、それも必ず買います!!
それぐらい良かったです!




2023-03-01 04:10 
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