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感想@映画「秒速5センチメートル」*ネタバレあり [映画・舞台]

アニメ映画「秒速5センチメートル」をDVDで観ましたので、感想を記します。
DVD視聴後、新海監督が書かれたという小説も読みました。

秒速5センチメートル [Blu-ray]

秒速5センチメートル [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: コミックス・ウェーブ・フィルム
  • メディア: Blu-ray


まず最初に、この映画を観るきっかけから説明します。

拙ブログの他の記事を読まれた方はご存知かもしれませんが、
私は今、栃木県に住んでいます。
岩舟駅を利用することはないのですが、JR両毛線は生活で利用する電車の一つです。
新海監督の作品「ほしのこえ」については、映画を観たことはないのですが、
漫画版はとても好きで、単行本も所持しています。
その監督が作った「秒速~」の舞台の一つが岩舟であるのを知ったのは、ごく最近です。
新作映画「きみの名は。」の公開に合わせてなのか、
近所のレンタルショップで新海監督作品の特設コーナーが作られたものの、
この「秒速~」はいつまで待っても借りられてていて全然見られない状況が続きました。
そして今年の七月中旬、やっと借りてみることが叶ったというわけです。
「どうも悲恋らしい」というぼんやりとした前知識のみで、視聴しました。


初見では二度泣きました。
まず、第3話「秒速5センチメートル」でようやくタイトルが出てきた場面。
丁度、主題歌である山﨑まさよしさんの「One more time,One more chance」が
いきなり大きく聞こえたこともあって、
ぐいっと胸倉を強く掴まれたような衝撃を受けました。
その後の、まるで曲のMVのような断片的な映像が流れた後、
最後の最後、踏切で小田急線の電車が通り過ぎた後に振り返って
篠原明里らしき女性がもういないと分かった瞬間、
「ええええ……」と絶句して泣きました。
個人的に、鬱系の話は大好きなのですが、
ここでは何故か、第3話冒頭のモノローグのせいもあってか、
(今振り返れば、きっとあの人も振り返る云々)
再会が叶って二人の話がまた始まるのだと思い込んでいたんです。
泣きながら「そうか。悲恋ってこういうことか……」と前知識に対して納得しました。

見る前は、よく知っている名の駅が出てくるということで、
第1話の「桜花抄」について特に注目していましたが、
実際に視聴した後は、第3話の「秒速5センチメートル」ばかりが頭にありました。
まるで、明里との初恋に心が囚われてしまった遠野貴樹のように、
この第3話に私の心が囚われました。



その後、レンタルの期限が切れるまで、何度も何度も観ました。
まず、第1話「桜花抄」について。
以前は小田急線沿線に住んでいて、当然、電車によく乗っていたことと、
現在も使う沿線(JR埼京線・JR宇都宮線・JR両毛線)が出てくるということで、
雪による遅延で絶望を見た貴樹の気持ちが痛いほどよく分かる上に、
本当にもうよく見知っている場所がたくさん出ているので、
途中でいたたまれない気持ちになったのも度々ありました。
特にJR小山駅……!
知っている場所ばかりで、見ていると「あ、あそこ!」と指したくなります。

それと、背景描写に東北要素が入っているのが気になりました。
あそこまで雪が降ることは当時も滅多に無かったですし、
冬場でもストーブは置かれていないです。
(勿論、ホームと駅構内とを遮断する扉も無いです)
とても良いシーンに対して、つまらないツッコミをするのは不作法だと、
時々、自分でも嫌になるのですが、
やっぱり気になります。
岩舟出身のアニメ好きな友人も同じ指摘をしていたので、
近隣の人はどうしてもそうなってしまうのかもしれません。

二人の再会のシーンは本当に美しすぎて……
人生における大事な宝物を見せてもらえた気がして、何度見ても胸が熱くなります。
第3話を最後まで見た後、この二人がこの後もう二度と会わないのだと思ったら、
更に、綺麗なものだと感じられてなりませんでした。
作中では、二人が渡せなかった手紙の内容が明らかになりませんでしたが、
小説版でそれぞれの気持ちを見た後ですと、
この再会は、良くも悪くも二人の想いを昇華しているように感じられて、
映画しか見なかった時とはまた違った感想を抱きました。



第2話「コスモナウト」は……
正直に言いますと、映画を観ただけではぴんとこなかった話でした。
澄田香苗はかわいいので、好感を持てましたけれど、
どうしてこの話を描くのかがよく分かりませんでした。
でも、これは、香苗の成長や想いを描くと同時に、
貴樹に好意を持つ他者の目から見た彼の描写であって、
第3話に出てくる水野理紗の視点に繋がるのかなと思いました。
貴樹も、香苗に対しては他の女子より多少は好意があったでしょうし、
水野さんについては恋人として三年も付き合っているので、
確かに愛情を持って接していたんでしょうが、
香苗や水野さんにしてみれば、貴樹の心はずっと遠くにあって、
自分がどんなに頑張っても近付けないんだと感じられるものだったんだろうなと。
香苗は、波で立てたら貴樹に告白しようと以前から強く決めていて、
実際、そうする寸前までいきましたが、
それは香苗の都合によるものであって、
貴樹の望み(意思)ではないんですよね。
告白しようとした時に香苗が貴樹から感じた「今は告白するな」オーラのようなものを、
水野さんも日々の生活の中でたまに感じていて、
でもそれは貴樹にしてみれば無自覚なもので、水野さんもその事情を理解していた分、
彼女は彼の知らないところでとても辛い思いを強いられていたのかなと、想像しました。

この話で何度か出てくる、貴樹が明里と思わしき少女を連れているシーンも、
非常に印象的でした。
貴樹にしてみれば、一緒にいる彼女は間違いなく明里なんでしょうけれど、
あれから一度も会っていないせいで成長を知らず、少女の顔はのっぺらぼうです。
また、香苗の視点で見る二人も、
彼女は「貴樹がメールを送っている相手」だと想像することしかできないので、
最後以外はやはり顔がのっぺらぼうなんですよね……。



そして第3話「秒速5センチメートル」。
当初は、亜里との初恋をいつまでも引きずっている男の話かと思っていました。
幼い頃は踏切の向こうで自分を待っていた(だけでなく、戻ってきた)少女は、
大人になって他の人に恋をして、もう自分を待つことも戻ることもしない。
それでも男にとっては、初恋の人は特別な存在で、
待っていないと分かっていても、戻ってこないと分かっていても、つい待ってしまう
……そういう話なのかと思っていました。
最後に貴樹がふっと漏らす笑みは、そんな哀れさを伴った自嘲なのかと思い、
やるせないな、せつないなと思いました。

でも!!!!!
小説を読んで感想ががらりと大きく変わりました。
男女の恋愛観の差についてはともかく、
貴樹は最後、前向きな気持ちで微笑んでいたんですね……!

個人的には、上記の通り、鬱話が好きなので、
もうどうしようもないほど初恋に囚われてしまった貴樹の方が好きなのですが、
そう感じられてならなかった映画版と違い、
小説では貴樹がちゃんと足を前に踏み出そうとしていて、
映画とは違った感動を覚えました。
良かったなぁと、素直に思いました。

こう言うのは間違いかもしれませんが、
新海監督が本当に描きたかったことが小説版なら、
そうとはとても思えない(読み取れない)映画版は失敗なのではないかと思います。
ただ、映画を作られた後で小説を書かれたらしいという事情を踏まえれば、
失礼ながら、監督の中でも変わられた部分があったのかなと想像できます。
とにかく、良くも悪くもこの映画に何か思うことがあったなら
小説版を読まれることを強くお勧めします。
本当に、この作品の見方や感想が大きく変わりますので。
小説 秒速5センチメートル (角川文庫)

小説 秒速5センチメートル (角川文庫)

  • 作者: 新海 誠
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/メディアファクトリー
  • 発売日: 2016/02/25
  • メディア: 文庫


とはいえ、感想や感情が変わっても、第3話はやはりせつないです。
あの大雪の再会から二人が全く会っていないという厳しい現実は勿論のこと、
あれだけお互いに好き合ってのに、
過ぎゆく日々の中でいつの間にか文通がどちらからともなく途切れ、
大事な記憶は想い出の一つとなって心の隅に積もり、
時として心を大きく揺さぶる……ということが、
視聴者の心に共感として深く突き刺さってくるからです。
貴樹と明里のような美しい想い出を持つ人はあまりいなくとも、
「忘れられない人がいる」視聴者にとって、この二人が見せてくれた話は、
愛しく懐かしい過去に思いを馳せるきっかけとなるのではないでしょうか。
逆に言えば、そういう経験に乏しければ、この作品に共感するのが難しくなるので、
「この話のどこが良いのかが分からない」となるかもしれません。

他の男との結婚を間近に控えた明里が、柔らかく明るい気持ちで
過去の手紙と対峙していたのに対し、
第3話の主人公である貴樹から読み取れる感情の多くは、苦しみや悔いです。
そんな負の感情が、共感させられてしまった視聴者の心を、
どうあってもやり直せない過去に飛ばしてしまうんだと思います。
その後の(踏切での貴樹の)心の動きの描写が、
映画では丁寧に書かれていないので、
そこを読み取れない場合は、視聴者の心もそこに置いてけぼりとなり、
哀しい話として終わってしまいます。
そういう展開も好きな私にとっては、これはこれでとても好きなのですが、
「鬱アニメだ」といって非難する人の気持ちも理解できます。
それぐらい、第3話は重いです。
水野さんからのお別れメールもきつかったなぁ。
別に私宛ではないのに、ぐさぐさと心に刺さりました。
あんなメールを恋人から貰ったなら、
そうさせてしまった原因が自分にあるといくら分かっていても、
死にたくなります……。



そうそう、人の想いを運ぶ象徴のように鳥が飛ぶ映像が何度か入るところが
とても好きでした。
それを見るだけで「あぁ……」と泣きそうになります。
私が今更ここで書くことでもないですが、背景の映像はむちゃくちゃ素晴らしいです。
だからこそ、話のせつなさが深く沁みます。



最後に、小説「秒速5センチメートル」について。
これを読んで良かったと思ったのは、
上記の通り、第3話のラストシーンの見方が変わったことと、
第1話で貴樹と明里が渡せなかったそれぞれの手紙の内容が分かったことです。

上で語った前者は省きます。

後者は……
「好きでした」と手紙に過去形で書いた貴樹と、
「ずっと好きです」と手紙に現在形で書いた明里。
初めてのキスの時、二人の気持ちは確かに同じで、混じっていたけれど、
想いを自分の一部として自然に昇華させられた明里と、
何となく引きずってしまって現在の(別の人との)恋愛を駄目にしてまう貴樹。
この差が、映画のみを見ていた時以上に伝わってきて、せつなかったです。
よく考えてみれば、悲恋と言えるような内容ではないのに、
とにかく辛いです……。
貴樹にしてみれば、別に、明里のことを四六時中ずっと考えていたわけでなく、
付き合った女性のことは本気で好きだったんでしょう。
でも全然「大丈夫」じゃないので、
かつて自分に「あたなは大丈夫だよ」と言ってくれた明里を
無意識のうちに日々の端々に思い出してしまう。
明里とは違った意味で、貴樹にとっても彼女は自身の一部となっていますが、
依存が伺えるような心理状況らしいので、苦しいんですよね。
小説の最後の一文
「この電車が通り過ぎたら~」云々が希望に満ちていて、本当に良かったです。



よく知った場所が作品の舞台ということで、
小説を読んだ後、ゆかりの地めぐりと題して、JR小山駅とJR岩舟駅に行ってきました。
写真も撮ってきましたので、後で別記事としてアップする予定です。

(追記)聖地巡礼の記事をアップしました。
【映画「秒速5センチメートル」聖地巡礼(栃木)】
https://himezakura.blog.so-net.ne.jp/2018-07-18


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2016-08-16 23:19  nice!(0) 
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