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感想@映画「遺体 明日への十日間」*ネタバレあり [映画・舞台]

映画「遺体 明日への十日間」を劇場で観てきましたので
感想を記します。
以下の記述にはネタバレを含みます。

遺体—震災、津波の果てに

遺体—震災、津波の果てに

  • 作者: 石井 光太
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/10
  • メディア: 単行本

キャストさんはこちら。
相葉常夫:西田敏行さん
土門健一:緒形直人さん
及川裕太:勝地涼さん
芝田慈人:國村隼さん
大下孝江:酒井若菜さん
下泉道夫:佐藤浩市さん
山口武司:佐野史郎さん
松田信次:沢村一樹さん
照井優子:志田未来さん
平賀大輔:筒井道隆さん
正木明:柳葉敏郎さん

原作の小説は未読です。


————

東日本大震災の地震・津波被害が起きた直後の
釜石市を舞台とした映画です。

この映画の制作については、随分前に、
西田敏行さんのインタビューか何かをテレビで見ていて、
こういう映画が作られているとは一応知っていました。
その後、劇場で他の映画を観た際に
この映画が公開されることを知って
「絶対、見にいこう」と思ったのですが……
公開はもっと早くて、二月下旬だったんですね。

監督と脚本は君塚良一氏、
製作は亀山千広氏(フジテレビ)というのも知り、
失礼ながら「大丈夫なの?」と不安になりました。
両氏には申し訳ないですけれど、
作り手としての良いイメージは無いですし、
フジテレビがこの手の映画を作っても
演出過多でお涙頂戴の安っぽいヒューマンドラマに
なってしまうのではないかと、
思えてならなかったからです。

でも、それらは杞憂でした。
西田敏行さんが演じられた相葉常夫を中心とした
ヒューマンドラマであることは確かでしたが、
いわゆる“フジテレビ臭”は全くせず、真摯な作品でした。
もし、私のように変な先入観を持っている方がいるなら、
早々に捨てることをお勧めします。



実を言いますと、都合で上映時間に間に合わなかったので、
私は冒頭の十分〜十五分ほどを見落としています。
私がスクリーンに入った時、
映画の中では既に地震・津波が起きていて、
遺体が続々と安置所(体育館)に運ばれていました。
相場さんがあうあう言いながらも、
遺体が雑に扱われていることに対して注意を放ち、
また、本来はそれをやるべき釜石市職員の
平賀大輔(筒井道隆さん)たち三人が、何もできず、
ぼんやりと突っ立っているだけのシーンから見ました。

そう、自分のせいとはいえ、いきなり、
青いビニールシートにくるまれた死体が
ごろごろ床に置かれているシーンから見る羽目になりましたので、
とてもショックでした。
とはいえ、遺体からはグロテスクだという印象は受けず、
「痛ましい」という気持ちでいっぱいでした。
最初は、とにかく衝撃が大き過ぎて
呆然としながら観ていたんですけれども、
話が少し進み、相場さんが市長の山口武司(佐野史郎さん)に
遺体安置所でボランティアとして働きたいと申し出るシーン辺りから
涙が出始め、止まらなくなりました。
以後、程度の差はあれ、
最後のスタッフロールまでずっと泣きっぱなしでした。



次々と運ばれる遺体。
それを安置所までトラックで運ぶ人、
運ばれてきた遺体を一つ一つ診る医者、
遺体確認の重要な手がかりとなる歯を調べる医者と助手、
遺体確認の為にやってくる被災者、それに対応する人、
何かしなければと思いつつ何もできない人、
より大変な思いをしている人が大勢目の前にいるせいで、
自分の動揺や悲しみを上手く昇華できず、戸惑っている人
……とにかく、現場では大勢の人がいました。

私も、あの日のことはよく覚えています。
私は栃木県(福島県の南)に住んでいて、
たまたまその日は家にいましたので、
震度6強という今まで体験したことのない激しい揺れに対し、
心底驚きました。
身の危険を強く感じるほど、物凄く怖かったです。
でもその時は、テレビやネットを見ていても
生きている人にばかり目を向けてしまうというか、
避難所に退避した方の生活や、
家族を探して避難所や遺体安置所を奔走する方の心配をする方が
圧倒的に大きかったです。
また、私の場合、帰宅困難者の問題の方が身近で、
この映画で見た遺体安置所の惨状までには気が回らなかったことから
「あの時にこんなことが起こっていたんだ」と
改めて強く実感しました。
新聞等の文字や、ニュース番組の報道で見聞きしていた以上に、
そこはとてつもなく凄惨で悲しい場所でした。

当時は、私の自宅周辺でも余震に何度も襲われ、
震度5クラスの大きなものもあった他、
3や4クラスの地震も日常的にあったので、恐怖を感じたのを
今でもよく覚えています。
映画の中でも、大きな余震に動揺するシーンがあって、
観ているだけで怖かったです。



映画では、何もできない(命令されないと動けない)釜石市職員が
印象的に描かれています。
普通でしたら、彼らは無能と罵られ、
「こんな非常時に動けないなんて」との非難を浴びせられても
仕方が無いでしょう。
実際、相場さんも、怒ったり苛立ったりはしていないけれど、
何もしない彼らを見兼ねて声を掛けるシーンもありました。
私には、そんな彼ら三人の姿が、
まるでそこにいる自分を見ているようで辛かったです。
特に、志田未来さん演じる照井優子が。

映画序盤で照井さんたちが見せた、
「何かをしたい」「何かをしなければ」と思うけれど
実際には行動できない、
何をすれば良いかが全く分からないから、とりあえず
他人の邪魔にならない位置まで下がって無言で見ている
……という彼らの心情が、痛いほど分かりましたので、
私は辛かったです。
冷静になれれば、
また、周囲の現状をちゃんと把握できて、
自分の役割(できること)を理解できるようになれれば、
誰だって相場さんのように動けると思うんです。
実際、時間の差はありましたが、最終的には、
市職員三人とも積極的に他人の為に動けるようになりましたし。
でも、想像を絶するショッキングなことが起こって(地震・津波)、
今も別の形でそれが続いている
(遺体が続々と搬送されてきている)状態で、
万人がそんなふうに、
すぐに適確に動くことはまず無理だと思います。
何もできないのも当然です。
もし私があの場にいたら、
照井さんのように体育館の壁際にいて、
目の前の事態をぼんやりと見ているだけだったろうなと
安易に想像できました。
あれ、他人の邪魔にならないようにするだけで
精一杯なんですよね……。
ですから、日が進んだことにより、
少しずつ心に余裕を持てるようになった三人が
拙いながらも遺族に声を掛けるようになったり、
床をこまめに拭いたり、
身体の一部が見えてしまっている遺体の毛布を掛け直したり、
遺族の要望に応えてお茶を出したりするシーンでは、
人としての心の成長に明るい未来を感じられましたので、
とても嬉しかったです。
祭壇を作ってお線香をあげるシーンも良かった。



それと、運び込まれる遺体が乱雑に扱われる点について、
相場さんが憤りを覚えていましたが、
私は、そんなふうになるのも仕方が無いかなと思いました。
普通の状況だったら——また、遺体の数がもっと少なかったら、
運ぶ人だって、相場さんからの注意を受けなくても
遺体をちゃんと丁寧に扱ったと思います。
でも、ただでさえ重い遺体が、
津波で身体も衣服も水を含んでいるので更に重くなっている他、
自身も被災したという極限状態
(体調が悪い/食事もろくに取れない/家族や家が心配)で、
いくつもいくつも運んでいる状態です。
早々に感覚や精神は麻痺したでしょうし、
遺体を人だとは思えなくもなるでしょう。
物扱いしてしまう彼らを単純に責めることはできないと思います。
遺体の汚れ方からいって、津波には
海水の他、大量の土や下水、油も混じっていたようなので、
酷い匂いだったでしょうし、相当強いですよね。
私には、寧ろ、あの場面でよく
「だったらお前(相場さん)が運べよ!」と
誰も言わなかったなと思いました。
尤も、言うほどの気力も無かったというのが正解かもしれませんが。
また、こうなってしまう事情があるとはいえ、
相場さんの怒りは人として正しいことですので、
彼は誰かが言うべきことをしたんだと思います。



そんな遺体と体面する遺族も様々で……。
母親の顔に死化粧をしてあげるシーンでは、笑い泣きというか、
ちょっとほっとした後に無性に悲しくなりました。
また、死んだ子にずっと寄り添ったまま離れようとしない母親の描写や、
亡くなった夫に触れる妻が
「また探すから」「必ず会いましょうね」と涙ながらに語るシーンでは
涙が止まりませんでした。



終盤近くになって見られる、
芝田慈人(國村隼さん)が読経をするシーンは
非常に圧巻でした。
日本で「宗教」というと、
あまり宜しくないイメージがありますし、
お葬式でこそ宗派を意識するものの、
普段は有名なお寺や神社に参る程度で、
自分自身は無宗教だという人も多いと思います。
私もそうです。
でも、芝田住職がお経を唱え始めたのを聞いた途端、
嫌な緊張がふっと弛んで、とても安心できたんです。
「ああ良かった」「これで救われる」と思えました。
なんていうか……宗教というのは、
やはり、心の救済なんですね。
映画の中でも、登場人物たちがその声にすぐに気付き、
顔をそちらに向けたり、自然に両手を合わせたりしていました。
極端な話、皆にもっと心のゆとりがあれば、
宗派の違いといった細かいこと等で揉めたと思うんですが、
そんな事が全く出ないほどの極限状態で聞いた読経は
心にむちゃくちゃ響きました。
この辺は、仏教が根強い日本人ならではの感覚かなと思いました。



この映画の最後は、
遺体安置所に収容される遺体の数が徐々に減った後も、
相変わらず別の遺体が運ばれてくる映像で終わり、
また、遺体安置所が閉鎖された後も
新たに遺体が見つかっている云々のテロップで締められます。
映画で描かれた十日間だけの話でなく、
人によっては今もまだ続いている苦しみ・痛みだというのが
よく伝わってきました。

この映画はドキュメンタリーではなく、
ヒューマンドラマですので、作り物です。
でも、ドラマだからこそ出来た——逆に言えば、
ドキュメンタリーでは表現できないものもあったと思います。
普通、映画を観た後は、作品に対して
楽しめたかどうかで自分の中で優劣をつけ、
こうして感想記事を書くのですが、
今回ばかりは、映画の出来がどうであるかということは
全く考えませんでした。
とにかく、記憶に残る当時のことと照らし合わせたり、
映画の登場人物の心情を考えたりするだけで精一杯です。
これを書いている今も、正直なところ、
胸がいっぱいで、頭もいっぱいで、よく分かりません。
ただ、是非、他の方にも観てほしいと強く思えましたので、
作品としてはこれで良かったんだと思います。


最後に。
これは事実のほんの一角でしょうし、また、
ドラマを盛り上げる要素として使われるのも仕方ないのですが、
小学生と思しき小さな子供の遺体が運ばれてきたシーンは
とても辛かったです。
「あ、私、これ駄目だ。辛い」と思っていたら、
照井さんが代わりにパニック状況になったので、
自分がそうならずに済んだんだと思います。
臨月だったらしい妊婦さんも含めて、
最後まで引き取り手が現われない点も残酷でした……。
特に子供の方は、
もしかしたら親兄弟も亡くなっているのかもしれないと思うと、
せつなくて、胸が痛みました。
大人用の棺桶が並ぶ中、小さな棺桶がぽつんとあるのは
本当に痛ましかったです。
やりきれない。



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2013-04-17 19:58  nice!(0) 
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