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感想:小説「臨場」横山秀夫著*ネタバレあり [アニメ・ゲーム・漫画・小説]

横山秀夫氏の小説「臨場」の感想です。
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以下の記述にはネタバレを含みます。

私はこちらのドラマのファンで、感想も書いています。
ドラマ「臨場」第1シーズン感想
テレビドラマ感想一覧:再放送 視聴
ドラマ「臨場」第2シーズン感想
テレビドラマ感想一覧:2010年春 放送開始作品

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ドラマの原作である小説を読もうと思ったのは、
ドラマ(第1シーズン)が良かったから
一度、小説でも読みたかったという理由もありますが、
何より、ドラマ化されていない話が一つあると
ネットで見たからでした。

で、そのお話は
・「声」というタイトル
・後味の悪い作品
・作中でレイプが取り上げられている
……とも知っていました。

恋愛ものの小説で、最終的に和姦に繋がるレイプならまだしも、
ミステリでレイプ……ですと
読んでいて楽しい事はまずないので、少し気が重かったのですが、
知らないお話への興味が勝ってしまいました。


読み終えた後の最初の感想は「本当に後味が悪い」でした。
小説の最後で明らかになるオチ(斎田梨緒が自殺した理由)は、
レイプものではたまにある内容でしたので、
驚く事は特になかったですが、
つい「うわぁ……」と言って顔を歪めてしまう嫌悪感は
強く覚えました。
これはおそらく、お話の構成の巧さにもよるのでしょうね。

このお話は三つに分けられていて、
最初と最後が過去のエピソード(斎田梨緒の視点)で、
それぞれ繋がっています
そして真ん中(二つ目)のエピソードが現在で、
斎田梨緒と仕事で関わった検事と事務官が、
彼女の死を知って驚くシーンから始まります。
なので、
一つ目:斎田梨緒の自殺の鍵となる過去の話の発端
二つ目:斎田梨緒の自殺が判明&その要因に対する推測
三つ目:真相(一つ目の話の続き/二つ目で出された推測に対する答え)
という構成になっています。

ここでポイントになってくるのが、
一つ目と三つ目で描かれる事件は、
斎田梨緒が自殺を図った鍵ではあるのですが、
この事件だけが彼女を死に追いやったわけではないんですよね。
勿論、“そういった事”の積み重ねもあって
斎田梨緒は自分を否定するようになり
最終的に自殺という選択をしたのでしょうが……。

最後に明かされる真相については、
分かりやすい手がかりがポンと与えられているだけです。
でも、二つ目でなされる自殺の理由への推測や、
その答えである三つ目を読むと、
「あぁ、これが理由だったのか」と納得する事ができます。


二つ目で出てくる検視官の倉石義男は
斎田梨緒の死を自殺だと断定し、
検事や事務官がする推測の一部をはっきりと否定します。
しかし、その自殺の理由は、
斎田梨緒の過去を全て把握していないとまず分かりません。
斎田梨緒はそれを誰にも明かしていませんので、
当たり前ですが、倉石にも“拾う”事ができません。
(現場の遺留品からも、そこまではさすがに読めない)
よって、作者は
最後に三つ目として斎田梨緒本人の話を再び入れる事で
読者への“種明かし”をしています。
ドラマ版ですと、倉石が謎を何でも解いてしまいますが、
この小説版は、倉石はあくまで
手がかりを与えるだけに過ぎない役割です。
この点では、倉石が謎解きを最後までしないこの話も
“臨場”の中では違和感無く存在しています。

タイトル“声”は、
読み終った後に「あぁそういう意味か」と分かります。
そして斎田梨緒が可哀相になってきます。


作中で「やる瀬ない」との言葉が何度か出てきます通り、
こちらは本当にやるせないお話でした。
レイプを題材にしている内容も、ドラマにし難い点ですが、
魔性の女だった斎田梨緒に合う女優さんを見つけるのは
なかなか難しいのかもしれません。
(それに、レイプ被害を受ける役柄なので
女優さんにオファーしても、受けてもらえない可能性が高いですし)



さて、“声”以外のお話について。
これらは全てドラマの原作になったものですので
(しかも私は、ドラマを再放送で視聴したばかりでした)
タイトルを見ただけで、死因と犯行動機、犯人が分かる状態でした。
で、読んでいて思ったのが
ドラマは原作を上手く膨らまして作ったんだなという事です。

原作のお話は短編ですので、
これだけですと、約一時間のミステリ作品を作る事はできません。
よって、ドラマでは
倉石を始めとする主要キャラクター像や人間関係を
深く描くと共に
原作を下地にしたお話そのものにも付け足しを行なっています。
私はドラマのファンですので
この付け足しが良いなぁと思えた反面、
それがない小説は、「あ、これで終わるんだ?」と
物足りなさを少々覚えました。

また、こちらはミステリ作品で、
真犯人と犯行動機、犯行手順が
最後に明かされるのを基本としていますが、
読者に「犯人は誰でしょう」と問うものではなく、
登場人物が真相に行き当たるまでの経緯と真相を
読ませる内容になっています。
なので、途中までに読者に与えられる事件の手がかりは
やや中途半端で、
最後になって「実はこうだった」と明かされる事が多く、
事件に対してあれこれと推測するのが好きな私は、
「自分も(本を読む事で)登場人物と一緒に推理したかったな」と
思いました。

それと、原作の小説は
単発の読みきりをまとめられたものですので、
お話によって主人公が違うのも、
ドラマに馴れていた私には、当初、やや違和感がありました。
(小説とドラマでは、登場人物の設定も違います)
ですので、ベストは
こちらの小説を読んでからドラマを見る事かなと思いました。

それでも、ドラマで興味を持った方にお勧めできる内容でした。
宜しければ、是非どうぞ。



*「臨場」は今回レビューした本です(ドラマ第1シーズン原作+“声”)
「スペシャルブック」は、ドラマ制作陣へのインタビューと共に、
単行本未収録の作品(第2シーズンのドラマの原作となる予定)が
収録されているそうです。


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2010-04-08 21:24  nice!(0)  コメント(0) 
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