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感想:漫画「日下兄妹」市川春子*ネタバレあり [アニメ・ゲーム・漫画・小説]

月刊アフタヌーン2009年12月号に掲載された
市川春子先生の漫画「日下兄妹」の感想です。

虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンコミックス)

虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンコミックス)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/11/20
  • メディア: Kindle版

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いやぁ……久し振りに
「これは絶対に感想を書かなきゃ!」と思える漫画に出会えました。

私はおお振りのファンなので、
ここ四〜五年ほど、アフタを毎月欠かさず購読しています。
昔はともかく、最近は時間がなかなか取れないので、
アフタも、好きな漫画だけ読んで閉じてしまっています。
なので、大変失礼ながら
私は市川先生のお名前を知りませんでした。
でも今回、おお振りの感想を書くのに疲れて(文章量が多いので)、
「ちょっとひと休みしよう」と思った際に、
たまたまこの作品の前のページ(単行本の宣伝ページ)が
目に入ったんですよ。
で、そこで紹介されていた作品「虫と歌」に対して
「そういえば、これ、読んだ記憶があるなぁ。
なんか変な話で、印象に残ってる」と思い出したんです。

これでちょっと興味を持ったので、
こちらの漫画「日下兄妹」を本格的に読み始めてみたのですが
……これまた大変失礼ながら、
私は市川先生のような絵をあまり好まないので、
読み始めた当初のテンションは低かったです。
本当に、暇つぶし程度の関心しかありませんでした。
でも、ヒナが名前を与えられた辺りから一気に面白くなり、
日下君とヒナが二人で海に行ってからは
涙が出てしまいました。

特に、ヒナが正体を明かすところと、
ヒナが日下君の肩の部品になったところは
もうもう涙が止まらなかったです。
こうして感想を書いている今も、泣けてきます……。



私がこの作品に対して、最初に「ん?」と思ったのが、
肩を壊した元球児の日下君が、
古道具屋を営んでいる自宅の店で、
破損品(掛けたり割れたりしている特価品)と一緒に並び、
「ここにいたら売れたりして……」と
心の中で呟くシーンでした。
その直後の、「おまえ、どこ壊れてんだよ」「俺、肩」も
大変素晴らしい。
非常に残刻な事ですが、
手術をしても完全に元通りにならない肩を持った投手は、
確かに、そういうものかもしれません。
しかも駄目押しのように、このシーンでは、
「破損品」との文字の横に、強調の波線まで引かれている紙が
貼られている横に、日下君が座ってるんです……。
嫌でも、日下君が“破損品(人)”であるのを
認識させられるんです。



ヒナについては……当初の姿がネジあての部品である事と、
徐々に育っていった時に、
日下君の友だちが一気に訪ねてきた展開になっていたので
バタバタと慌ただしいページだなぁと思いながら
軽く読み飛ばしてしまいました
(ちゃんと読まなくても支障が無さそうだったので)。

でも、ヒナに名前と服が与えられてからは、
彼女の外見が本当に人間の子供っぽくなった事もあって、
私は一気に興味を持ちました。
そこからは、ちゃんと読みましたww

「ヒナがかわいいなぁ」と思いながら読んでいたのですが、
名付けのシーンで、産まれてこなかった妹の話が
日下君の口から出されていたので、
私は、彼女がその生まれ変わりなのかなと想像していました。
本物の陽向ちゃん(妹)が
お兄ちゃんが球児としては不幸な運命に遭ったのを知って、
ネジあての姿を借りてこの世に降りてきたのかと
──だから、ヒナのいる生活は、
兄である日下君の淋しさを慰める為のものかと思っていました。

なので余計に、私にとってヒナの正体は衝撃的でした。
その前のページで、日下君と共に海にやって来たヒナが、
「ぶひんどこ?」「ぶひんさがす?」と
見当違いながらも泣ける事を言っていて、
(しかも、彼女を撫でる日下君の腕が
ヤバい感じで震えるようになっていて)
ここだけで、うわー……と思えていたのに、
ページをめくったら、
ヒナが「肩、治しませんか?」と勧めるだけでなく、
自分の正体を明かしていたので、たまらなくなってしまいました。
「流れ星は彗星のクズです」の台詞を見た瞬間に
そういう事か!と理解できたので
涙腺が決壊しました。
球児の欠陥品と彗星のクズが、擬似兄妹になってたんですね……。

日下君の「ひとのくずとほしのちりの兄妹だ」の台詞も、
その直前にあった
ヒナを妹として大事に思っている日下君の気持ちが表れた台詞も、
そんな日下君を兄として好きだからこそ
ヒナが進んで彼の肩の部品になったシーンも、素晴らしかったです。
本当、こうして挙げているだけで、泣けてくる。

部品となったヒナが、日下君の肩に入っていく絵も、素敵でした。
もう、ああいう絵が苦手とか言ってる場合じゃなかったです。
お話に圧倒された勢いで、絵に対しても感服させられました。



普通は、これでお終いなのに、
駄目押しのようにヒナが最後に表れたのも、大変良かったです。
しかも、当の日下君だけがそれを知らないという状況が
もうニクい……。
ヒナの最後の台詞が「お兄ちゃんのこと好きよ」で、
日下君の最後の台詞が「ヒナ」なのにも、泣けました。
くずとちりが合わさった事で、
日下君の肩が治った事は嬉しいのだけれど、
せつないです。
お話を読んでいると、日下君がヒナとの生活を
とても愛おしんでいたのがよく分かるので、余計に……。
実際、日下君は、自分の肩が治らなくてもいいから
ヒナと一緒に兄妹として暮らしたいと思っていたと思います。
ヒナも、人前で日下君から「妹(のつきそいで)」と言われたり、
家を出るという話で「ふたりか」と言い直してもらえたりした事は、
とても嬉しかったと思います。



それと、細かいなぁと思ったのが、
図書館に通った際の、ヒナの読んでいる本です。
具体的には分かりませんが、
書棚にジャンルがちゃんと書かれているんです。

最初は、日下君が関わっている“スポーツ”。
ヒナが読んだのは、おそらく野球の本ですよね。
その後で、豪速球を投げてますし。
ヒナは、ショートするぐらい熱心に読んでたんだなぁ。

ヒナが豪速球を投げる直前に、
日下君達は星についての話をしています。
これを受けて、次に二人で図書館に行った際に、
ヒナは“宇宙・科学”の本を読んでいます。
この読書中に、
日下君が、高校野球ファンらしい人から声を掛けられて
腕を心配されています。
ヒナも、日下君の肩の現状を当人から教えられています。

そして、次に図書館に行ったヒナは
“医学”の本を読むわけですが……
その後、日下君の肩がいよいよヤバくなっていると分かると、
ヒナは「としょかん」と言って日下にせがみ、
最後に“宗教(“教”は半分隠されていますが)の本を
読んでいます。

最後にヒナが宗教に辿り着くあたり、
ちょっとした哲学だなぁと思ってしまいました。
しかも、宗教の本を読み終えた後のヒナは、
完全に“妹”として成長できたのか、
身体が急に大きくなってるんですよね。
(読んでる最中は小さいのに、読み終った後は大きい)
このへんも上手いなぁと思いました。



こちらは、上記の通り、
昨日(10/24)発売されたアフタ今月号に収録されたお話ですが、
来月発売される先生の単行本「虫と歌 市川春子作品集」にも
収録されるようです。
もし未読の方がこちらを読んで、興味を持って下さったなら、
是非!とお勧めします。
寝る前に、布団に入りながらゆっくりと読んで、
「あぁ、幸せだけれど、せつない結末だったなぁ」
と思いながら眠りたい──そういうお話でした。

私はとりあえず、積んであるアフタヌーンの山を崩して、
市川先生の他の作品が収録された号を探します。
こちらも単行本に収録されるようですが、
発売日までとても待てません。





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2009-10-25 01:33  nice!(0)  コメント(4) 
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コメント 4

nyao

はじめまして。
自分も今日アフタヌーン読んで、市川春子さんの「日下兄妹」傑作だと感じました。ひとつひとつのエピソードも魅力的ですし、何より漫画としての描写・演出が素晴らしい。
さくらさんの感想も頷きながら読ませていただきました。ただ後半の「日下君が球児として元の道に戻れた事」というのはちょっと違うのではないかと思いました。
日下君はもともと野球が好きだったわけではなく、自分の意志というより周囲の(特に世話になっているおばさんの)期待に応えるために野球をやっていたわけですよね。野球を続けたくないけど、逆らったら捨てられるんじゃないかと怖くて言い出せなかった。だから肩が壊れたのも、「十年かかって壊した」という表現になる。
腕は治ったけれども、これからは野球ではなく天文学をやりたいとおばさんに告げたことが、日下君の人間的成長として描かれていると思いました。

長文失礼しました。
市川春子さんの単行本、本当に楽しみですね!
by nyao (2009-10-25 23:06) 

さくら

■nyaoさま
初めまして、こんにちは。コメントありがとうございます。

>日下君が球児として元の道に戻れた事
私の言葉が足りず……というか、別の文章を書くべきでした。
そこは、日下君が
身体的に野球ができていた元の状態に戻れた事という意味で
書いていましたので。
まぎらわしくてすみません。
上記の本文は、該当部分を別の文章で訂正しました。

日下君が抱えていた事情(野球をやるのは本望でなかった)や、
その後、退部届けを出して、オバサンにも本音を明かした件は
漫画できちんと描かれていますので
勿論、その点は私も理解しています。
ヒナとの出会いによって、日下君も成長しているのが
本当に素晴らしいですよね。
by さくら (2009-10-26 00:55) 

t.m

感想を探してここに辿り着きました、はじめまして、
ご存知かもしれませんが市川先生のサイトです、
http://ptpt.x0.to/pp/
漫画もあります。
by t.m (2009-10-27 00:48) 

さくら

■t.m様
初めまして、こんにちは。
ご紹介をくださり、ありがとうございました。

私が伺った時は、漫画のページが見当たらなかったので
(ブラウザのせいで
単にリンクが見えなかったせいかもしれませんが)
ちょっと残念でした。
by さくら (2009-11-11 20:18) 

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