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感想:小野不由美「十二国記:落照の獄」*ネタバレあり [アニメ・ゲーム・漫画・小説]

(9/27)
書き忘れていた事があったので、最後に感想を追記しました。


こちらの記事にも書きましたが
http://himezakura.blog.so-net.ne.jp/2009-09-23-1
本日26日発売の「yom yom」12号に
小野不由美先生の人気小説
「十二国記」シリーズの新作「落照の獄」が掲載されると知り、
予約して買ってきました!
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早速、読了しましたので、感想を記します。
ネタバレがありますので、未読の方はご注意下さい。


「yom yom」6号掲載の「丕緒の鳥(ひしょのとり)」の感想はこちら。
http://himezakura.blog.so-net.ne.jp/2008-03-01


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読み始めてすぐに
「随分と難しい事を取り上げたな」と思いました。
「落照の獄」というタイトルがもう
不安を感じられるものでしたし、
新潮社の「yom yom」のサイトにて、
今回が柳国のお話である事も分かっていましたので、
その柳国が、確か“ゆっくりと傾きつつある国”のを踏まえると、
ますます、暗い内容なのかな……との想像は易しかったですが、
案の定、その通りでした。



現代の言葉で、内容を簡単に記しますと……
金品を狙って子供まで殺した極悪人・狩獺(しゅだつ)を裁く
瑛庚(えいこう)という男が主人公のお話です。

狩獺の犯罪は、全てが残虐で、しかも数が多い事から、
彼を殺刑(死刑)に処するのが妥当ではないかというのが
柳国の市民感情も含めた、一般的な見方です。
しかし、この柳国では、かつての劉王の定めにより、
極悪人は、今でいう無期懲役に処することになっています。
それでも、現代の地方裁判所に当たる郡司法や州司法が
狩獺に殺刑の判決を下してしまっただけでなく、
この判決に躊躇う事があったそうで、
狩獺は、それらより上位にある国府に送られました。
そして、今でいう最高裁での判決を待っています。
主人公の瑛庚は、狩獺に最終判決を下す立場にあります。

劉王は絶対的な立場ですから、
彼の決めた事は皆が守らなければなりません。
それでも、先に狩獺を裁いた郡司法や州司法は、殺刑の判決を下し、
これによって市民が
「あ、劉王によって止められていたけれど、殺刑もありなんだ」と知った事で、
彼らの中で、狩獺を殺刑にせよという意見が過剰に膨れ上がります。
それは、瑛庚の妻が、思い余ってしまい、
被害者家族を自宅に呼んで、瑛庚に悲痛な声を聞かせてしまうほど
過剰になっています。
しかし、人を裁く者として公平でなければならない瑛庚は、
被害者家族からの言葉を、耳に直接、入れる事はできません。
また、瑛庚は、この現状に困ってしまい、
劉王からの言葉を再び貰おうとしますが、
肝心の劉王は、もう既に政に飽きてしまったのか、
投げ出した感があり、
結局、これといった進展が見られる言葉は貰えませんでした。
殺刑を復活させるか否かは、相変わらず、
瑛庚に掛かっています。

ここで問題になるのが……
瑛庚が狩獺を殺刑に処するのは簡単ですが、
国が傾きつつあるのが分かる状況において
殺刑を復活させる事は、
今後、国がもっと傾いた時に
その殺刑が乱用される可能性に繋がってしまいます。
また、ここで瑛庚が無期懲役の判決を下せば、
市民の感情を逆撫でしてしまい、
彼らの、国府に対する信用を一気に失わせてしまいます。
それに、
最早どうあっても更正しそうにない極悪人を生かすという事を
国が繰り返してしまうことになります。
(これまでにも狩獺は何度も捕まっています)
普通であれば、瑛庚は
狩獺の事だけを考えて、判決を下すべきですが、
今後への憂いがあるからこそ、それができなくなっています。

そして、瑛庚自身の過去の悔いを生かして、
彼は狩獺と会って話します。
その上で、とうとう判決を下します。



こうして、あらすじを書いているだけでも
鬱々としてしまうお話です。
前回は、陽子が主上となった直後のお話で、
最後には主人公の懸念が晴れた事で、爽快感も得られましたが、
今回は、瑛庚がどちらの判決を下しても後味が悪くなると
序盤で分かりますので、
私は暗い気持ちで読み進めました。
明るくて楽しいだけが十二国記のお話でないのは、
重々分かってますので、
こういう重いお話が短編で来る事に対して、驚きはしませんでしたが、
こちらが久し振りの新作であるのを思うと、
もう少し明るいお話が読みたかったなぁと
ついつい思ってしまいました。

でも、どちらに転んでも上手くいかないほど、
柳国は病んでいたのでしょうね。
瑛庚は、結局、狩獺に対して殺刑を下したので、
今後の未来において、柳国が本格的に傾き始めた時に
人がどんどんと殺刑で死んでいくだろうとは、容易に想像できました。
また、このお話の最後で、
その刑罰を聞いた瞬間の狩獺が笑っていますが、
これはまさに、彼自身の笑いだけではなく、
国を傾かせるものの笑いのようにも思えました。
そもそも、狩獺のような
どうしようもない極悪人が増えてきた現状も、
国が傾きつつある証拠なんですよね。
なので、まだ本格的に国が傾いてない今は、
劉王が再び政に関心を持って、何とかすれば良いのでしょうが、
それは難しい……ので、
柳国が最悪な未来を迎えるであろう事が、
もうある程度は決まっているのが
読後の後味の悪さに繋がっています。
瑛庚のように、立場がある者でさえもどうにもできず、
仕方なく下した結果が、国を更に悪い方へと動かしたのも、
哀れな話です。
また、今回、殺刑を強く推した一般民衆は、
瑛庚の憂いを全く知りません。
もしかしたら、近い将来、国が傾いた際に、
殺刑の復活を強く望んだ彼らが
安易にそれが施行されるようになった被害に遭うのかもしれないのを思うと、
知らないというのは怖い事だなと、改めて思います。
民衆は、その時になっても、
殺刑が横行する国を呪うだけであって、
まさかこの時の自分たちの強い望みが大きな原因だとは
思わないでしょうし……。



国がかなり傾いてからのお話は、
他のお話で、既に読んでましたが、
傾きつつあるお話は、まだ少ないので
「あぁ、こうやって国が病んでいくんだ」と実感できました。
民衆レベルまで下がると、上の人間は完全に腐ってしまっているので、
まだ民衆がそうでない状態で、
上の人間が“傾いて”いく様をこうして読めたのは、
(傾きの影響は、国府の上層部からゆっくりと下に進行していく)
十二国記の世界観を知る上でも、有難かったです。

でも今回は、瑛庚が悩んだ末に結論を出すお話なので、
堂々巡りをしている部分もあり、
読んでいて、ちょっとだけ飽きました。
(すみません)
他の用事があった事もあり、一気に読まず、
途中で止めてからまた再開しています。
人によっては、
もしかしたら読んでいる最中に眠くなるかもしれません。

死刑の問題は、現代に置き換えても
非常に複雑で、難しくて、
それこそ人によって考えが違うので、
よくもまぁ、小説で扱ったなぁ……勇気があるなぁと
私は思ってしまいました。
人は、死に対してとても敏感ですから、
たとえ小説でも
このお話を(瑛庚の判決を)「許せない」と思う読者が、
中にはいるかもしれません。
でも、死刑に対して考える良い機会かもしれませんね。
私も、こちらの作品を何度か読み直してみて、
自分が瑛庚の立場だったらどうするかを
考えてみるつもりです。



(9/27 追記)
大事な事を書き忘れていたので、追記します。

瑛庚たちは、大司冦が発したらしい言葉によって
暗闇の中に光を見い出した気持ちになっています。
この瞬間だけ、ちょっとだけ救われたようでもあります。
もし、これから更正するかもしれない望みが
狩獺にちらりとでも見えれば、
また、凶悪な犯行に至った理由に
僅かでも彼なりの正当性が見えれば、
瑛庚たちは、彼の将来性(という単語も変ですが)を買って、
彼を生かす事ができます。
悩みに悩んでも答えを出せなかった瑛庚たちは
言わば、そこに救いを求めたのに、
当の狩獺の言動からは絶望しか感じられなくて、
しかも、自身から「俺は悔い改めない」と完全否定されてしまった
……文字通り、望みを完全に絶たれてしまったわけです。
光は消えてしまい、闇に戻ってしまいました。

瑛庚が、国や法に対して、ここまで真剣でなければ
悩む必要がない問題だっただけに、
彼が、今後どんどん殺刑が下されるであろう悪例を作ってしまったのは
残念でなりません。
瑛庚は仙なので、
本人が望む限り、よほどの事がなければ
国が腐っていく様を、何十年、何百年と見せられるわけで、
もし、つまらない事でも殺刑になってしまう世の中になった時に、
果たして瑛庚は正気を保っていられるのかと思いました。
生真面目な彼は、今回の結末で“前例”を作った事に対して
強い責任を感じているはずなので、
その責任を取るという意味で、
柳国が傾いていく様を見続けると思うのですが、
これはあまりにも酷な罰だなと思います。





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2009-09-27 02:52  nice!(0)  コメント(2) 
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コメント 2

黎絃

はじめまして、十二国記が大好きながら日本にいないため新作を買えずにいる者です。感想と詳しいあらすじ、有り難く読ませていただきました!恐縮ですが、この記事を自分のブログにリンクさせて頂きましたので報告します。
さくら様の記事を読むに、瑛庚がとても立派な人物に思えます。
心情的には罪人を死刑にすれば良さそうだし、その方が反発も少ないと分かっていながら自分の残す判例の余波を考えて悩むところが良いですね。もしかしたら現実の裁判官にとっては当たり前のことかもしれませんが。自分で実際に読める日が待ち遠しいです。初めてながら長々と失礼いたしました!
by 黎絃 (2009-09-26 22:19) 

さくら

■黎絃さま
初めまして、こんにちは。
コメントをお寄せ頂いたばかりでなく
当ブログにリンクまで貼って頂いたそうで、ありがとうございます。
とても嬉しかったです!

外国にいらっしゃると
こういう雑誌ものを入手するのは本当に厳しいですよね。
しかも、約一年振りの新作とあっては
黎絃さまもさぞかし歯痒い思いをなされたかと思います。
でも、こちらは、その辛い思いが報われるだけの
重厚な内容のお話になっていると思います。

一日も早く、黎絃さまが読める日が来ますように。
by さくら (2009-10-05 03:45) 

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