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読書感想:早見和真「ひゃくはち」 和田竜「のぼうの城」*ネタバレあり [アニメ・ゲーム・漫画・小説]

図書館で借りた本の記録と感想です。
自分用の覚え書きも兼ねています。

今回は話題のベストセラー二冊です。
流行に乗ってみて
「話題になってるから」という理由で借りてみました。
・早見和真「ひゃくはち」集英社
・和田竜「のぼうの城」小学館
(「のぼうの城」は前回読めなかったので
貸し出し期間を延長してもらいました)
2.jpg

以下の感想ではネタバレを含みます。
未読の方はご注意下さい。
今回は冊数が少ないので、感想はひとことではなく長めです。


────

・早見和真著「ひゃくはち」


私は高校野球の大ファンです。
高校野球がとにかく大好きなので
この題材で話題になってる……とあれば
読まないわけにはいきません。
そういえば、この夏に映画化もされたそうで。
発売されたばかりで、近隣も含めて図書館には入っておらず
リクエスト用紙を申請して、本を入れてもらいました。

……正直に言って
どうして話題になってるのかがさっぱり分かりません。
主人公の雅人が補欠だから? 熱血球児とは一味違うから?
高校生で、しかも球児で煙草を吸っていると分かった時点で
私はまず「あぁ駄目だ」と思ったのですが、
それを除外しても
最後まで私はこの主人公を好きにはなれませんでした。

この小説は、現在と過去が章によって交互に書かれています。
まず、この必要性が無いというか
主題を高校野球に据えるなら、
現代の話をこんなに書く必要は無かったんじゃないかと思いました。
現代の雅人の問題は
徳島への転勤(佐知子との恋を含む)、
恋人・佐知子の奇妙な言動ですよね。
主人公に過去を思い出させながら
雅人の現代を描きたいんだろうなという意図は伝わってくるんですが
余計な描写が多くて気が削がれたり、
途中で飽きたりした部分がちょいちょいあったので
勿体ないなぁと思いました。

そして、この物語の一番の読みどころであろう、
最後の夏を前にしての雅人の自主退部ですが……
ここは、申し訳ないですが、置いていかれた感がありました。
雅人が退部することに意味を全く感じませんでした。
いや、大事な野球を捨ててまで
自分と同じ境遇にあるノブを大事に思っていたというのは
それまで散々、文章で直接書かれているのを読みましたので
主人公における“絶対的事実”として受け止め、理解しましたが
おまえが野球部を辞めてどうするんだというふうに
思えてならなかったです。
寧ろ、そんなに野球が軽かったんだと思えてしまいました。
それと、作者がこの部分で読者を泣かせたいんだろうなというのが
透けて見えた気がして、萎えたのも
主人公に同情できなかった理由かなと思います。

なんていうか……喫煙もそうなんですが
雅人たちに「悪いことをしている」と本気で思ってる様子が無いのが
嫌なんですよね。
高校野球は、高校生として模範となるべき生徒がやる野球なんです。
実際は違うのかもしれませんが
少なくとも高野連やファン(私も含みます)が求めるのは
まさしく“清く正しい”高校生なんです。
せめて、法律で禁止されていることは止めてほしい。
それでなくとも、喫煙は野球をやる上で身体的に障害でしかないのに。
全く悪びれた様子が彼らにないのがなぁ……。

それと、ノブに関してなんですが
恋人・千渚ちゃんの電話の告白によって、
彼らには以前にも妊娠騒動があったことがはっきりしますよね。
この時は検査薬のミスで、慌てただけで済んだらしいですが
このカップルは、どうしてその時の反省を生かせなかったんだろうと
思えてならないです。
セックスに快感が伴う上に
彼らがそういう事に興味を持つ年頃であるのは察しますが、
セックス=子供を作る行為だという大事な(基本)ことが
根本的に分かってないんじゃないかと思えてならないです。
また、直接的に書かれてない親はともかくとして
ノブの友達である雅人を始め、友達皆が(現代の佐知子でさえも)
それについて誰一人として触れてないのが怖いです。
なので、ついつい、
作者がこの作品の中ではそういう倫理を大事にしてないんじゃないか……と
穿った見方をしたくなってしまいました。
雅人たちは、情で
千渚ちゃんに子供を堕ろさせる・堕ろさせないを語ってる様子なのが
いかにも現実が見えてないというか
愚かな子供が(精神的に未発達な人物が)
目先の欲望に溺れているらしいのが
おそらく作者の意図しない形で
私には伝わってきました。
これは、喫煙にしても同じです。

メディアで高評価で取り上げられている最たる理由は、
この、雅人が見せる“友情”だと思いますが、
それを素直に受け入れられたら
もっと見方は変わったと思います。

確かに、甲子園出場を賭けた最後の大会前に、
ベンチ入りできるか否かのボーダー上にいる選手
(しかも、ややベンチ入り寄り)が
自主的に辞めれば、劇的な展開かもしれません。
でも、雅人は春のセンバツで甲子園の土を踏んでいるのを考えると
その“潔さ”のインパクトが薄れている気がします。
高校球児にとって甲子園は聖地ですから
何度行っても飽きることなく、
それこそ優勝して全国制覇しても何かしら悔いが残る場所でしょうが、
一度も行けてない球児の憧れには物凄い力があります。
たとえば、春のセンバツでベンチ入りメンバーに選ばれたのがノブで、
惜しくも漏れたのが雅人で
……今度の夏の試合では
雅人にベンチ入り間違い無しという当確確定のハンコが押されていたのなら、
「そんなにノブが大事なんだ」という気持ちが
私にも生まれていたかもしれません。
でもこの展開↑だと、
千渚の妊娠のせいで野球を止めざるを得なくなるノブが
弱くなるんですよね……。
ここはやはり、二人ともセンバツではベンチ入りから漏れた方が、
私の好みだったかもしれません。

最後はすっかり置いていかれましたが、
中盤の、センバツのベンチ入りメンバーが発表された前後は
ドキドキしながら読みました。
特に、報告の電話を自宅にした時、
素っ気無い対応を父親からされたのを妹に言ったら、
実は父親が号泣してたという部分は好きで、
何度も何度も読みました。
その後の、ノブの電話も辛かったです。

高校野球をテーマにした普通の小説だと思います。
映画も、野球部を辞める部分がクローズアップされてるんでしょうか。
少し気になります。
流行に乗りたい人なら読んでも良いかもしれませんが
無理にそうする必要はないかもしれません。


────

・和田竜「のぼうの城」


朝日新聞の書評で「面白い」と挙げられてました。
歴史小説ファンでなくても面白く思えるけれど
歴史小説ファンならもっと楽しめるというような感想も
どこかで読みました。

これはまず、カバーに描かれた表紙絵が巧いなぁと思いました。
ひょうひょうとした、つかみ所のない“でくの坊”の
“のぼう様”のイメージを
このカバー絵一つをパッと見ただけで、掴むことができます。
あまり有名でない歴史人物を小説で描く際、
読者にその風貌をどう説明するのかは、決して簡単でないのですが
この絵は凄い力を持ってます。

せっかく、奇妙な“のぼう様”が主人公なんですから
最初は石田三成の説明でなく、
素直にのぼう様の話で良かったのではないかと思いました。
あの、何もできない(寧ろ、何かされたら他の人が迷惑を被る)話は
田植えにおける苗の植え直しのエピソードによって
よく表われていると思うので。

そして、これは各書評の影響が悪い方に出ているのかもしれませんが、
私が読む前から期待していた部分
(読もうとしたきっかけである)が出てくるのが、
ページが全体の半分ぐらいの所で、ようやく……という状態なんです。
それまでは、忍城の厳しい現状を始め、
のぼう様や家臣、奥の人々、
戦で重要な役割を果たす百姓といった登場人物の説明が
エピソードと共になされています。
そこが出てくるまで長かったです。
その描写が出てくる時は、「やっとか」と本当に思いました。

私がこの本に興味を持った理由は、書評にあった
「あの石田三成でも落とせなかった異色の城主」云々という言葉でした。
つまり、忍城の現状でも、魅力ある家臣たちでもなく、
圧倒的な兵による人海戦術において城を攻めようとした三成を
のぼう様がどう撃退したかを、私は読みたかったんです。
最初から、そこに重点をおかず、
のぼう様はどういう人だったかという点に興味を抱いていれば
初読の感想は違っただろうなというのが
読み終えた直後の感想でした。
いや、戦を念頭に置いてしまうと、三成の対決まで確かに長いんですが、
個性ある家臣達が魅力的に描写されていて、とても素敵なんですよ。
自分の前知識で損をしたような気になりました。

これ、洋画ではたまに起こることらしいです。
洋画が日本で公開される際、
その映画の注目点であるCMにおいて、
日本と海外では内容が違うとよく聞きます。
つまり、主題ではないけれど日本人が好む部分がCMでわざと強調された結果、
観客が映画を見た後で「あれ?」と思わされる状況です。
CMで何度も流されていた部分が
実は映画全体ではあまり意味を持ってなくて
それを期待して見てみると肩すかしを喰らってしまうという。

読み終えてみれば、三成との戦いはこの本の主題なので
私が読んだ書評やその他メディアの煽り方は
間違ってないのですが(詐欺ではない)
この本に関しては、それを期待して読まない方が絶対に面白いと思います。
いや、期待する方向が本の内容と同じなら良かったわけですが……
現在の書評の大部分が書いてあることを期待した結果、
私は勝手に、前半に物足りなさを覚えてしまったわけで。
戦を主として心に据えると
それが無い前半はちょっとだらだらとしていると感じてしまいます。
(エピソードによって語られているとはいえ、言わば現状の説明ばかりなので)

小説を含めて、歴史に興味が無い人が読んでも面白いかというと
首を傾げてしまいます。
歴史に興味が無い人なら、冒頭の三成の説明部分だけで
読むのを止めてしまうような気がします。
それもあるので、最初はやっぱりのぼう様の描写が良いと思います。

でも、個人的にはお勧めできる本です。
歴史小説を読むのが苦でないなら、充分に楽しめると思います。
結果的に城を明け渡さなければならなかったのは歴史が証明してますが
それでも、攻めてくる三成を応戦する家臣たちの描写には
清々しいほどの勢いがありました。
一気に読んでしまいました。それだけ面白かったです。
状況も丁寧に書かれていたので、光景が頭の中に自然に浮かびました。

また、三成の良くも悪くも堅い部分が特に魅力に思えたので
彼についてちゃんと勉強したいなぁとも思いました。
(これは、ゲーム「戦国無双」の三成が好きという理由もあります。
ゲームは未プレイですが/苦笑)
────

感想は以上です。
いくら話題作であっても、
自分の好みと合うかどうかで抱く感想は全く違う……という
例のような本でした。


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2008-09-04 16:44  nice!(0)  コメント(0) 
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